2021年のふりかえり

意思表出支援「ヨミトリ(Yomitol)」の活動に応援と温かい関心をお寄せくださっている皆さま、
いつも本当にありがとうございます。

2021年は、昨年に続き依然コロナ禍にあったものの、感染対策を講じながらヨミトリの活動の頻度を昨年より上げることができました。今はシンさんとタカシさんのお二人をヨミトリ支援しています。

シンさんは2000年の交通事故による脳と脊髄の損傷で、以来、意識があり周囲の会話もわかっているのにそれに反応することが難しい状態です。ご家族の懸命な介護、各種訪問サービスの活用により、頷く・手を上げる等の動作で少しずつ反応を示すことができつつあります。ただ、まだ随意ではなかなか体を動かすことができなくて表出が安定せず、発話はできません。
でもヨミトリでは、ひらがなで書くという様式にきちんと沿って、日々の出来事やその時の思いをたくさん書いてくださいます。デイサービスには週に何度か通っておられますが、コロナ禍で移動支援を使っての外出プランが延期、また延期となってしまっているため、来年はぜひ出かけたいと希望されています。たかぎは今までに、競馬場と水族館にご一緒しました。

タカシさんは、パーキンソン病の進行により全身麻痺・発話不能となられ、昨年ヨミトリ支援を開始するまで約5年間意思疎通が困難でした。奥様がいつもタカシさんのおそばにおられ、本当によくタカシさんの介護をされています。他の人にはわからないわずかな表情や呼吸の変化などをキャッチされ、ごく小さな体調の変化にもすぐに気づいて、大事に至らぬよう日々努力されておられます。
ヨミトリを始めた頃は、たかぎより年長のタカシさんが書かれる文章が常に「~です・~ます」調で、少々固い印象でしたが、最近は、「~だよ・~だなー」といったカジュアルな語尾をたくさん使われ、ジョークも出たり、お茶目な一面を見せてくださり、お話しするのがとても楽しいです。
先日タカシさんのサービス担当者会議が開かれ、たかぎも参加してタカシさんの思いを直接出席者の皆さんに伝える機会を持つことができました。

昨年知り合ったブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)の大学研究者の増尾明先生の学術研究においては、研究協力者のご紹介というコーディネートのボランティアをさせていただきました。事故による頚髄損傷で四肢麻痺となった茶太郎パパさん、一緒に歌を作ったALS患者のゆうさんとのBCIによる脳波の測定・解析を皮切りに、新たな研究協力のネットワークの広がりがあり、とても嬉しく思っています。ゆうさんとの研究成果は、増尾先生が作業療法士学会で発表されました。タカシさんもBCIに一度トライされ、来年の再チャレンジを楽しみにされています。

そして、8月にとても嬉しい出会いがありました。ITエンジニアで、今夏の東京オリンピック2020で話題となった自動走行バスの開発チームのメンバーだった岡田さんが、ヨミトリに関心を持たれ、ヨミトリのデバイス化を手掛けてくださり、秋に試作機が完成。早速タカシさん、シンさんにモニターとなっていただいてテストを行ったところ、検証といくつかの改良を経て、お二人とも、目視では確認できない微細な力で試作機を操作し、「はい・いいえ」を自力でディスプレイに表示することができました!
タカシさんもシンさんも、「とてもうれしい」と私に何度も書かれました。私とヨミトリで書く時と同じぐらい負荷なく操作できたのだそうです。岡田さん、すごいです。テストに立ち会ったご家族もものすごく喜んでおられました。

シンさんには、これまでICT支援の黒子先輩やウッチー師匠が、シンさんの身体機能と興味に合わせてたくさんの自助具を作ってくださっています。シンさんがそれらを使って熱心に体を動かす練習をして来られたことはとても嬉しいことでしたし、また、それらのものづくりのテストや改良に立ち会って学んだこと、気づいたことが、今回のデバイス製作において自分のビジョンを明確に伝えることにとても役立っていると感じます。黒子先輩、ウッチー師匠、本当にありがとうございます。

そして、トータルコーディネーターとして大活躍のイッシーに今年もお世話になりました。情熱と鋭い観察力でいつも有益なアドバイスをありがとう。

意識がない、意識レベルが不明といわれていても実はわかっていて、わかっているのにその表出に困難があるが故にわかっていないと判定されてしまう場合があります。でも、その言葉をキャッチするすべがありますし、また再び言葉が届くようになると、身体や表情は劇的に変化することを皆さまにお伝えしたいです。

わかっているのに、わかっているとまだ伝えられないあなたに、
そしてあなたと再び言葉を交わしたいと願っているあなたの大切な人へ、

あきらめないでください。
必ず読み取れるとは言えませんが、でも可能性はあります。

一緒に意思疎通できる方法を探していきましょう。

ご一緒しましょ!